システム開発のパートナーを探しているシステム開発会社や事業会社の情報システム部の方、あるいはスマホアプリ・WEBアプリの開発を検討している新規事業企画やマーケティング部の方は、システム開発の外注先として「オフショア開発」という選択肢も耳にすることがあると思います。

オフショア開発とは、一言でいうと「海外にシステム開発を外注すること」です。「言語の問題をはじめとしてコミュニケーションコストが高そう」「日本と海外の距離がある中で開発を円滑に進めるイメージがわかない」など、オフショア開発を利用するハードルが高いというイメージを持たれている方も少なくないかもしれません。

一方、DX推進が求められる中での日本国内における慢性的なエンジニアリソースの不足、高度IT人材を多数抱えるベトナム、ミャンマー等アジア諸国のオフショア開発先としてのメジャー化に加え、新型コロナウイルスの流行によるリモートワークの普及も相まって、オフショア開発を活用する日本企業は明らかに増加しています。

本記事では、オフショア開発の活用を検討するにあたり、必ずおさえておきたいポイントをお伝えします。


オフショア開発とは

オフショア開発(Offshore Development)とは、システム開発やシステム保守・運用などを人件費の安い海外企業や海外現地法人などに委託・発注することです。2013年までに約32%の日本企業がオフショア開発を実施した(出所:IPA グローバル/オフショア動向調査)というデータもあり、日本において比較的活用されているシステム開発手法の一つです。

実は、日本企業のオフショア開発活用の歴史は古く、1980年代にはシステム開発費削減を目的として中国でのオフショア開発が盛んになりました。その後、中国の人件費高騰を背景にメジャーなオフショア開発先はインド、そしてベトナムと変遷し、現在はミャンマー、フィリピンなどの国がオフショア開発先として注目されています。

オフショア開発を進める際、通常はオフショア開発を生業とする会社が日本で受注したシステム開発案件を、ブリッジエンジニア(通常はブリッジSEと略す。日本のシステム開発の発注者と、開発委託先である海外の2ヶ国間の橋渡し役となって開発プロジェクトを推進するエンジニア)を立てて、海外の開発要員を活用しながら開発を進めます。

なぜ、近年オフショア開発が注目されているのか?

グローバル化やクラウドビジネス、AIやIoTの活用、DX推進をはじめとして、高度IT人材の需要は非常に高まっています。一方で、このような案件に対応できるIT人材が日本国内には不足していることや、IT人材の人件費高騰が大きな問題となっています。特に、IT人材不足の問題は非常に深刻で、経済産業省によると2030年には40万人から最大で79万人のIT人材が不足するというデータもあります。

日本の企業がこの問題を解決する方法の一つとして、ベトナムやミャンマーなど、高度IT人材を多く抱えるアジア諸国を中心に、オフショア開発の活用が注目されています。

オフショア開発先の高い技術力

オフショア開発の案件はWEBサービス、アプリケーション開発、業務システムといったものが中心ですが、冒頭に記載した日本の高度IT人材不足やアジア諸国の高度IT人材の大幅な増加に伴って、近年ではAI、ブロックチェーン、IoT、VR・ARといったテーマの開発案件も増加しています。

実際にミャンマーでのオフショア開発を行っている当社も、DX推進はもちろん、VRシステム開発やIoT活用、Bot開発といった先進的な技術を用いた開発案件の案件が増えてきたという印象を持っています(GICの開発事例は こちら )。

ノウハウの蓄積に伴う成功率の向上

オフショア開発はオフショア先との言語や商習慣の違い、開発体制や開発の進め方の違いに伴う様々な壁があり、コストメリットはあるもののハードルが高く、品質担保も難しいといった印象を持たれている方も多いかもしれません。

確かにオフショア開発に伴うこのような問題があることは事実ですが、現在はオフショア開発の成功例や失敗例・失敗パターンが積み上がっていることや、日本にも10年以上オフショア開発を受注し続けている”老舗”も増えてきており、オフショア開発を成功に導くためのハードルは下がり続けています(当社でもミャンマーオフショア開発を10年続けており、その中で培われた様々なノウハウや、オフショア開発を成功に導くためのポイントを こちら にまとめています)。

以上のような背景もあり、日本企業向けオフショア開発の市場規模は年々拡大を続けており、2014年度から2019年度までの日本国内向けオフショアサービス市場規模は年平均成長率(CAGR)3.6%で推移しています(矢野経済研究所 グローバルアウトソーシング市場の実態と展望 2016)。また、かつてはオフショア開発を活用する企業は大企業が中心でしたが、現在では100名未満規模の企業が過半数を占めているというデータもあります。こういったデータはオフショア開発活用の敷居が徐々に下がっていることを裏付けているといってもよいでしょう。

さらに、冒頭に記載したようなコロナ禍におけるリモートワークの普及(海外とリモートでコミュニケーションを取りながら開発を進めることに対する心理的ハードルの低下)やグローバル対応(日本のエンジニアを活用するよりも、日本語も英語も理解できるアジア圏のシステム開発会社に外注する方が早くて確実)も相まって、システム開発においえてオフショア開発を選択することは当たり前の選択肢の一つになりつつあります。

オフショア開発が選ばれる2つの理由(メリット)

コスト削減

オフショア開発に関わらず「システム開発費用 ≒ ITエンジニアの人件費」です。例えばあるシステムを外注して構築するのにITエンジニア10人で半年間の開発期間が必要なプロジェクトであれば、エンジニア一人あたりの人月単価が100万円の場合、100万円 ✕ 10人 ✕ 6ヶ月 ≒ 6千万円がシステム構築に必要な金額になります(厳密には、エンジニアのスペックによって人月単価は大きく変わりますし、これに加えてサーバ代などその他費用も必要になるため、上記はあくまで概算です)

従って、人月単価が下がればシステム構築にかかる費用は大きく下がります。

日本のシステム開発会社の場合、人月単価は100万円以上の会社が多いですが、オフショア開発の場合は以下のような相場感となります(2022年現在)。これが、オフショア開発はコスト削減効果が高いと言われている理由です。

プログラマーSEブリッジSEPM
ミャンマー30万円前後40万円前後50万円前後60万円前後
ベトナム35万円前後45万円前後55万円前後65万円前後
フィリピン35万円前後50万円前後70万円前後70万円前後
インド35万円前後50万円前後70万円前後90万円前後
中国45万円前後55万円前後75万円前後100万円前後

リソース確保

かつてはコスト削減だけを目的としたオフショア開発が多かったのも事実ですが、現在はリソース確保を主な目的としたオフショア開発活用が増加しています。特にITエンジニアの「量」の確保だけではなく、高度なIT教育を受けた「質」の高い優秀な海外人材の確保や、量・質を担保されたエンジニアチームを一定期間確保することによる開発の「柔軟性」の担保を目的としたオフショア開発の利用も増えています(海外のエンジニアを一定数確保してシステム開発プロジェクトを進めることができる契約を ラボ契約 と言います)

加えて、優秀な高度IT人材を大量に確保することにより、通常の開発よりも「高品質」かつ「短納期」でシステム開発が行える可能性があることもオフショア開発のメリットです。

オフショア開発で注意したい2つのコスト(デメリット)

コミュニケーションコスト

オフショア開発においては、日本側の発注者とオフショア開発先の開発チームの間には日本語が堪能なブリッジSEが立ち、日本語の仕様書をブリッジSEが英語あるいはオフショア開発先の現地語に翻訳し、オフショア開発先では現地語でコミュニケーションが行われます。従って、システム仕様に関する認識あわせをはじめとしたコミュニケーションコストは、日本国内で開発を完結する場合に比べるとどうしても大きくなるのがオフショア開発の構造です。

「ブリッジSEは日本人なので安心」「ブリッジSEは日本語が堪能なので問題ない」といった内容を喧伝するオフショア開発会社も多いですが、実際は窓口に立つブリッジSEだけで開発が完結する訳ではないため、オフショア開発先の日本語能力はしっかりとチェックをしておく必要があります。

特に、ブリッジSEの日本語力のチェックはもちろんですが、オフショア開発先(海外)の開発チームの日本語能力も見ておくとよいでしょう。さらに、日本語能力試験(JLPT)の結果提示を求めるなど、日本語能力の客観的なチェックもしておいた方が安心です。

また、コミュニケーションコストの問題を解消するために、オフショア開発会社によってはプロジェクト立ち上げ期にブリッジSEだけではなく通訳がアサインされることもあります。そのため、通訳の人件費も含めると、プロジェクト体制・規模が一定以下の場合はオフショア開発のコストメリットが十分に出ない可能性もある点は注意が必要です。

オフショア開発を活用する場合は、継続的な開発や、中~大規模開発、または当社のようにプログラマークラスも高い日本語能力を有しているオフショア開発会社を活用する方がコストメリットが出やすい傾向があります(参考として、当社エンジニアの日本語力は こちら)。

品質管理・進捗管理などの管理コスト

海外で開発が行われるため、残業や納期、品質に関する考え方や商習慣の違い、ひいてはシステム開発や仕事自体に対する違いが発端となり、プロジェクト進行に支障をきたす確率は日本国内で完結する開発に比べると比較的高くなるのがオフショア開発のデメリットの一つです。

一方で、こういった問題の対処方法は体系化されており、 こちらのページ に記載したような対応を地道に行うことで、問題発生確率を最小化することができます。

海外でシステム開発を行うことに伴う以上のような注意点はありますが、オフショア開発経験を一定以上積み重ねてきたオフショア開発会社はこういった問題を未然に防ぐノウハウを多く保持しています。そのようなノウハウを活用することで、オフショア開発のデメリットを最小化できれば、「高品質・短納期・低コストなシステム開発」を実現させることができます。

オフショア開発についてのよくある質問

ニアショア開発(Nearshore Development)とオフショア開発の違いは?

オフショア開発と似た言葉として「ニアショア開発」があります。オフショア開発とニアショア開発の違いは外注先の距離です。システム開発を海外ではなく、東京・大阪などの大都市よりも人件費や家賃が比較的安い北海道や沖縄などの国内に委託するのがニアショア開発です。コストメリットに加えて、スタッフの行き来がオフショア開発に比べると容易で低コストで行えることなどのメリットがあります。

ブリッジSE(ブリッジエンジニア)とは何でしょうか?

ブリッジSEとは、日本のシステム開発の発注者と、開発委託先である海外の2ヶ国間の橋渡し役となって開発プロジェクトを推進するエンジニアのことです。ブリッジSEは日本にいる日本人または日本に駐在する現地側担当者が担当することがほとんどです。

ブリッジSEの具体的な業務は、発注元である日本企業との交渉・調整・開発状況の報告・要件の取りまとめに加えて、海外の開発チームとのコミュニケーションも担います。

当然ながらシステム開発に関する深い知識・経験と高い日本語能力(日本人がブリッジSEを担う場合は高い現地語能力)が求められます。また、日本側の仕様書では明示されていないレベルの要件・要求水準にも精通し、現地の開発をリードする能力も求められます。従って、ブリッジSEはプロジェクト・マネジャーやプロジェクト・リーダーを兼務するケースも多く、プロジェクト・マネジメントにおいても高い能力が求められます。

オフショア開発の活用を検討していますが、英語はできないとダメでしょうか?

自社で直接海外の開発企業にシステム開発を委託する場合は英語または現地語でコミュニケーションをする必要がありますが、当社をはじめとして日系のオフショア開発企業に依頼をする場合は日本語で問題ありません。

一方で、「日本語でコミュニケーションが可能」とうたっているオフショア開発企業は多いですが、日本語能力は会社によって大きな違いがあり、ブリッジSE以外は日本語がほとんどできないといった企業も多いのが現状です。

システム開発を委託する場合、委託先の技術力や開発実績などをチェックするのは当然ですが、オフショア開発の場合、これらに加えて委託先の日本語能力についてもしっかりとチェックをしておいた方がよいでしょう。

オフショア開発ではどのような契約形態がありますか?また、それぞれの特徴もおしえてください。

オフショア開発の契約形態は「請負契約」「ラボ契約(ラボ型開発)」の2つです。

請負契約はベンダー側(オフショア開発先)に成果物を納品する責任があり、成果物と責任範囲が明確な契約で、プロジェクトの立ち上げさえできれば発注者側の工数は比較的少なくなることが多いです。一方、発注前に要件を明確化する必要があり、プロジェクト途中での仕様変更が難しいなどのデメリットもあります。

ラボ契約はオフショア先に発注企業専任のITチームを確保できる契約で、確保する要員数✕期間で費用が発生します。仕様変更に柔軟に対応できるなどのメリットがありますが、ITチームにおける案件管理や生産性の担保は発注者側が行う契約のため、一定の開発ボリュームの確保などが必要になります。

ラボ契約と請負契約の違いの詳細は こちら に記載しているので、あわせてご覧ください。加えて、GICでは「SES(システム・エンジニアリングサービス)」にも対応しています。SESについての詳細は こちら をご覧ください。

また、GICではこれらの契約形態の違いのご説明や、貴社の開発にはどの契約があっているかのご提案も行うことが可能です。お気軽に こちら からお問合せください。

GICは10年間にわたってミャンマーを中心にオフショア開発を行って参りました。開発プロジェクトにアサインされるメンバーはPM・PLクラスはもちろん、ミャンマー現地のPGクラスまでほぼ全員が日本語の対応が可能です(GICの日本語能力や技術レベルについては こちら をご覧ください)。
GICはオフショア開発業界内でも類を見ない日本語能力の高さを活かすことで、日本語の仕様書をベースに、日本語でコミュニケーションをしながらオフショア開発を進め、オフショア開発で陥りがちなコミュニケーションの齟齬を最小化しつつ、オフショア開発のメリットである「低コスト・短納期」に加えて「高品質」なシステム開発を実現しています。GICのオフショア開発に興味のある方は、ぜひお気軽にお問合せください。