2022年1月25日に開催された、国内最大級の海外進出・海外ビジネスに関する情報が揃う展示会である海外ビジネスEXPO2022オンライン。今回の記事は本EXPOのオフショア開発展で「ミャンマーの実情とミャンマーオフショアの最新事情」と題して行われたセミナーから、ミャンマーの実情についての内容をまとめてご紹介します(ミャンマーオフショア開発についてのイベントレポートはこちらをご覧ください)。

クーデターから1年、現在のミャンマーの概況

ミャンマーで国軍によるクーデターが発生したのが2021年2月1日。国軍の弾圧による民間人の拘束者は1万名以上、死者数も1300名を超え、2022年になった現在も逮捕者や死者数は増加している。2021年9月にはNUG(国民統一政府)が国軍への一斉蜂起を発表し、国軍との衝突。ミャンマー北部の地方を中心に戦闘が継続している。一方、GICの拠点が存在するヤンゴンやマンダレーといった大都市圏では現行政府が治安状況をコントロールしており、状況は落ち着きを見せている。

クーデターに加えてコロナの影響も受け、現在のミャンマーの経済状況は良いとは言えない。正確な数字は公表されていないものの、2021年2月1日の政変以降120万名以上が失業したと言われており、世界銀行によるGDP成長率は-18%を下回るという予測が出ている。また、銀行の機能が十分に回復しておらず、現地通貨であるチャット安が続いており、管理為替の復活などの対応が行われているものの、未だ金融機能の完全な回復には至っていない。

コロナ感染状況は収束気味

2021年7月~8月がコロナ感染第3波のピークで、一時期は病院は満床となり、酸素吸入用ボンベが不足する事態となった。コロナ対策を主な目的として、2021年7月17日~9月12日を公休日に指定するなどの対策の結果、感染状況は落ち着きを見せ、2022年1月現在は一日あたりの死者数も一桁台となっている。

都市部の市民生活はクーデター前に戻りつつある

クーデター発生の翌月である2021年3月からはデモの弾圧が始まり、モバイルデータ通信の遮断、現金引出しの制限など、市民生活に大きな影響を与える政策が実行された。

一方、クーデターから時間が経過するにつれて、徐々に市民生活はクーデター前の状態に戻りつつある。夜10時~朝4時までの外出禁止は2022年1月現在も続いているが、ヤンゴンでは交通量も戻り、朝晩の交通渋滞が発生。街中やショッピングモールでの賑わいも戻ってきている。

ただし、完全にクーデター前の生活に戻った訳ではない。国軍系企業の商品不買運動は継続され、かつてはミャンマー国民のビール消費の主流だったミャンマービールは都市部ではほとんど見ることがなくなった。また、軍政府に反発している市民を中心に子供を通学させない家庭も多く、コロナ流行も相まって、実質的には約2年間にわたって公的教育が中断されている状況が継続しているなど、クーデターの爪痕は至るところに見受けられる。

日本人のミャンマーへの再渡航希望は増加傾向

2022年1月現在も国際商用旅客便の着陸禁止措置は継続されており、ミャンマーへの唯一の入国手段は、ミャンマー国民を日本から帰国させることを主な目的とした「救援便」に限られている。日本人がミャンマーに入国するためには、この救援便の日本人枠を確保する必要がある。逆に、ミャンマーから日本への帰国については、救援便に加えて、クアラルンプール、シンガポール、仁川経由など、ミャンマー入国に比べると手段は多い。

一時は政変やコロナ感染の流行に伴い、ミャンマーから日本に一時帰国した日本人も多かったが、その後の感染状況の落ち着きもあり、再度ミャンマーへの渡航を希望する日本人は増加してきている。これに伴って、救援便の日本人枠の増加が求められるが限られた現状にある。なお、2022年1月現在もミャンマーへ入国にあたっては、コロナワクチンを接種済でも10日間のホテル隔離が必要な状況である点は以前から変化はない。(2022年4月現在は変更)

ミャンマー進出の日系企業の7割が「事業拡大または現状維持」を指向

未だに軍事政権が国民生活に暗い影を落とすミャンマーだが、今後の展望は悪くない。下図はJETROによる日系企業の海外進出先における2021年度の営業利益見込みと、2021年と比較した2022年の営業利益見通しを示している。2021年度のミャンマーは7割が赤字と芳しくない状況だが、経済活動や市民生活も賑わいを徐々に取り戻してきており、7割以上の日系企業は2022年は「改善または横ばい」を見込んでいる。つまり、基本的にはこれ以上悪くなることはなく、ミャンマーの経済は回復基調に移行していくというのが大方の予想だ。

(左図:日系企業の海外進出先における2021年度の営業利益見込み、右図:日系企業の海外進出先における2021年と比較した2022年の営業利益見通し、共に出典元はJETRO )

このような予想もあり、ミャンマーに進出している日系企業の今後1~2年の事業展開の方向性についての調査の結果、7割程度の日系企業はミャンマーでのビジネスについて「拡大または現状維持」と回答している(同JETRO調査結果より)。

当然ながらミャンマーにおけるビジネスのリスクは継続的に存在しており、冒頭に記載したチャット安に加えて、USドルに対しての現地通貨の変動による現金不足、国外送金の規制、電力不足など、依然として多くの問題をミャンマーは依然として抱えている。

一方で、国軍政府が国民の活動を完全におさえこむことは不可能であり、10年以上にわたってミャンマーの経済発展によるメリットを享受してきた国民にとって、経済活動の後戻りは当然ながら望むところではない。少なくとも次回総選挙の2023年8月までは現状の体制は継続するものの、政治の体制とは別に、経済は徐々に回復し、クーデター前の目覚ましい経済の成長軌道に戻れる日もそう遠くはないかもしれない。

登壇者情報

GIC小林

小林 敏晴

こばやし としはる

GIC Myanmar Co., Ltd.  代表

1983年 KDD(現KDDI)入社
2014年-2018年 ミャンマー国営通信事業者MPTとKSGM
KDDIと住友商事との合弁会社とのJoint OperationにおいてIT部門を担当
2019年 GIC入社 主にオフショア開発を含む受託開発を担当
2021年 GICM代表に異動


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